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救国提言 日本よ、「大きな政治」にかえれ

(1)民主党は現実に目を向けよ
(2)小さくても温かい政府を
(3)勤労大国を目指せ

麻生太郎(自民党前幹事長)
与謝野馨(前官房長官)

与謝野いま世界は大転換期にあり、日本の運命を左右するような出来事が幾つも起きているのに、日本の政治がそれに気がついていません。それが私の一番の心配です。小さな問題はとかく分かりやすく、選挙の材料にしやすいが、やはり日本の政党政治がきちんと議論しなければならないのは、日本の将来や国民の生活の基本に関わる大きな問題です。世界の政治に比して日本政治はますます矮小化しています。

麻生福田首相と小沢民主党代表の党首討論をみていても、小さな政治ばかりで大きな政治の議論に発展しない。福田首相が「誰と話せば信用できるのか」と言ったでしょう。私はあの時、小沢代表がドーン!と机を叩いて「俺がやるに決まっているだろう」と立ち上がるんだと思ったが、本人はにやにや笑っているだけだった。これでは国民は失望するだけです。一国の首相が野党第一党の党首に対して「誰と話をしていいかわからない」と嘆くのだから、国民はたまったものではありません。日本がどこに向おうとしているのかわからないと思います。だから、自民党随一の政策通である与謝野さんと、民主党に対する共同提言をしてみようと決断したんです。

政党間協議の大切さは誰しもが言う。しかし、プロの政治家が考えなくてはいけないのは、意見が異なる政党の間での物事の決め方の技術です。与党は衆院の3分の2を握り内閣を構成し、野党は参院の過半を抑えている。旧来のやり方では対決するばかりです。国会の現場では意見がまとまらない。ただひたすら期限ぎりぎりまで首相と民主党代表の判断を待つばかり。日銀総裁問題でもガソリン税の暫定税率でも、二人が折り合わなければ時間切れ、というのはいかにも稚拙な政治です。

ねじれ解消に秘策はあるか

与謝野 結局、民主党は昨夏の参議院で勝った余勢を駆って、次の衆議院で勝とう、それまでは泥まみれの現実の政治に手を染めたくないという意識が勝ってしまうのでしょう。選挙戦略から逆算した思惑だけで日々の政治が行なわれているのは、大変不幸なことです。自民党は本来、実に柔軟でダイナミックな政党だから、物事をうまく収める、中庸を得た結論を出す、といったプロの政治技術に長けている。だから民主党が日々答を出す政治の大切さを思い起こし、柔軟な対応に目覚めてくれれば、我々自民党も国民の便益を最優先し、政党としての体面をかなぐり捨ててでも国民のために頭を下げる。それはいとも易しい話なんですがね。

大連立構想にせよ、日銀総裁人事にせよ、確かに福田首相は民主党の賛同ありうべしの感触をとって対応したと思います。相手の言うことを信用したというのは瑕疵なきことだと思う。ただ総理という存在は交渉事の最終的なカードです。その最後のカードが最初から出ていくというのは得策とは言えない。民間企業の合併でも、きちんと下から積み上げていって最後に両方の社長が会って話を決める。そのやり方の方が結局は効率的です。だから、政党間協議というのは、委員会の理事レベルもあろうし、国対委員長や幹事長レベルもあるでしょうが、一番大事なのは、双方ともきちんと物事を決める権限を持つ「特命全権大使」を出すことです。

麻生民主党の影の内閣(ネクストキャビネット)はいま本当に影で全然見えないのが残念ですが、イギリスやオーストラリアのように、それをカウンター・パートナーにすれば随分と変わるんじゃないか。与党も党の部会長と各省庁の副大臣を兼務させ、いわば政府・党一体で、閣僚と組み合わせて特命全権大使にする。通常はテーマごとに全政党参加の政党間協議で、委員会の理事レベルで妥協点を探るが、それで処理できない難題は、内閣と影の担当相会談に上げる。そうすれば民主党の影の担当相には、野党全体をまとめる責務も生じるし、政局と切り離した政策論争も深まるはずです。

与謝野 そうですね。それぞれの党を代表している者と協議していくというルールを少しずつ確立していく必要があると思います。そうじゃないと、民主党の言い分は与党が圧倒的な衆院で全く通らない。与党の意見も衆院で3分の2の再議決を使わないと通らない。政治の意志決定として非常に非効率です。

麻生今年度予算はこの国会でもみくちゃにされました。その反省にたってこの際、来年度予算は今夏の概算要求の段階から、民主党のシャドーキャビネットと政府と我が自民党の部会で協議して仕上げていくのがいいのではないか。

与謝野民主党が乗ってくれば十分できます。自民党側には拒否感はない。問題は民主党が現実の政治に手を染めるかどうかです。今のところ彼らは書斎の人。小沢代表も次の選挙までは現実政治に手を染めるのはやめようと、そういう気持ちなんだと思います。

麻生 書斎から出てこない。うまい表現だな。ただ、我々はそれでも書斎から出てこいと呼びかけ続けなくてはいけない。彼らにも現実への責任を負って欲しいんです。でないと不幸なのは国民です。

大連立構想の是非

与謝野私は大連立を福田首相と小沢代表が話し合ったとき、ようやくこれでモノが決まる仕組みができたと思いました。党同士がなかなか了解し得ない税制改革など大きな問題に手がつく、これは日本の将来のためにいい、と思った。ところが民主党は次の衆院選挙まで現実とは縁を切って尼僧のように生活するというんですから、どうにもならない。

麻生私は、小選挙区制を前提にした大連立なんかあるわけがないというのが基本的な考えです。地元で一対一で政策を掲げてやり合っているのに、いきなり手を握るというのは国民・有権者の理解を得るのは難しい。ただ一方で、こんなにも国会で物事が決められない、政党政治の瀕死状況が続くと、保守政治家として恐れるのは、ドイツのワイマール共和国においてナチスが登場してきたようなことが起きるのではないかということです。政党政治への信頼が地に堕ちると、国民にフラストレーションがたまる。危険なポピュリズムが台頭してくる危険性には常に注意していないといけない。ヒトラーだって最初は拍手をもって迎えられたのですから。

与謝野衆参逆転国会の混乱が続き、国民の政治不信が極限に達することへの危機感は私も同じです。民主党は、昨年の参院選が直近の民意だと主張しますが、衆院にとって直近の民意とは前回の2005年の衆院選です。双方がそんな形式論で争っていても仕方ない。さらに衆院選をやっても、衆参の逆転現象は解決しない結果となる可能性が高い。そうなると、今の段階から政策協議がきちんとできていないと、選挙をしても問題は解決しませんよ。ねじれはさらに深まることになるでしょう。

麻生例えば自民・公明の与党が衆院選で過半数をとれば、仮に再議決に必要な3分の2は失っても直近の民意は民主党をはじめとする野党でなく与党支持ということになります。それでも参院で野党が多数のままなら依然政治は動かない。

与謝野民主党は同じ保守政党ではないのですか。保守政党なら基本的な時代認識や外交・防衛、基本の政策で大きな差があるはずもない。だいいち、民主党の党首も幹事長も自民党出身なんですから。

麻生だから政策論争中心でやれば、合意は可能なはずなんです。最終的には衆院選で両党がマニフェストを掲げて信を問うのでしょうが、私が心配するのは、二大政党がともに目先の票の計算に追いまくられて、本当に必要な政策よりも耳ざわりのいい政策提示や、ばらまき合戦に陥って、年金や税制といった本来必要な制度改正が先送りされてしまうことです。それなら選挙前に政党間協議を進めて、結論を、少なくとも大きな方向性だけでも決めておいたほうがいい。連立や政界再編はその先の話でしょう。

文藝春秋 平成20年6月号
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