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与謝野馨元財務大臣が呆れています

 

与謝野
鳩山政権の経済政策を見ていると、日本経済全体に対する見通しがまったくないことに驚きます。事業仕分けで見せたようなミクロの部分への切り込みばかりで、マクロ経済的な視点がないんです。「ミクロの決死隊」だけでは、歴史的な変わり目を迎えている世界経済に対応することはできません。

また、本予算を組むためとはいえ、史上最高額となる 44兆円の新規国債の発行をアッサリと決めてしまったことにも呆れました。「財政赤字を積み上げた犯人」と批判されている自民党政権の時ですら、借金するときはおっかなびっくりでした。だから許されるギリギリのところで踏みとどまってきた。

しかもその時にわれわれは、財政バランスの状況を説明し、将来も含めた国民負担がこうなります、という試算を国民に提示してきました。しかし鳩山政権ではこういうものがまったくない。

バラまくことだけに熱心で、財源を借金に、頼っているままでは、日本の財政が取り返しのつかないことになってしまいます。


−−懸念される景気の二番底に有効な対策を打てない民主党政権。そんな現政権に対し、自民党きっての"政策通"として知られる与謝野馨元財務大臣が、ついに沈黙を破った。『民主党が日本経済を破壊する』(文春新書、1月20日発売)を上梓し、反撃の狼煙を上げ始めたのだ。


与謝野
鳩山政権には経済の成長戦略もありません。日本は今後少子高齢化が避けられず、労働人口の減少に直面しています。中国やインドのような猛烈な勢いで台頭してくる新興国と経済的に競って生き残っていくためには、優れた製品やソフトを作り出していかなければならない。ようやく昨年末に菅直人副総理が中心になってまとめた「新成長戦略」なるものを打ち出しましたが、中身を見てみると、自民党政権時代にやっていたことをホッチキスで留め直しただけのシロモノでした。

それなのに、経済成長率の予想だけはビックリするほど楽観的なんですね。2020年までの平均で3%の名目成長率を目指すといいます。ですが、成長率というものは人間の努力の結果生まれるものであって、待っていれば天から降ってくるものではない。

具体的な戦略もなしに成長を期待するのは、精神力があれば戦争に勝てると思っていた戦前の政治家・軍人のメンタリティと同じですよ。

そんな方針しか打ち出せなかった菅副総理が財務大臣を兼任したところで、日本の財政が改善するとは到底思えません。

菅副総理は昨年11月に意図の不明な「デフレ宣言」を突然発表し、直近では不用意に円安へ誘導する発言を口にしました。いずれも一時的な効果しか得られませんでした。具体的な政策を伴わない発言だから、それは当然です。経済に関しては素人同然の菅副総理に、多くを期待するのはやめたほうがいい。厚生大臣とは違うんですから。

いま、世界経済は2つの懸念を抱えています。

1つは、世界中の国々が低金利政策を展開しているために資金が溢れ、世界的な資産バブルが形成されているということです。

もう1つが、イギリスやアメリカの財政赤字がGDPの10%を超える危機的な状況にあるということ。両国の財政赤字が膨らめば近い将来、国債が暴落して長期金利が世界的に跳ね上がり、連鎖反応的に世界各地でバブルが弾けてしまうでしょう。

幸いにして日本経済はバブルになっていませんが、長期金利はちょっとしたショックで上がってしまう可能性があります。財務省の試算では、仮に長期金利が1%上昇すれば、2年後に国債費は4兆円程度増加してしまいます。そうなれば日本の経済財政がさらなる不振に陥ることは避けられない。いずれ財政の破綻を引き金に、日本の経済は崩れてしまうかもしれません。

政府はなぜこれほど経済音痴な政策しか打ち出せないのか――。それは鳩山さん自身が何も分かっていないからです。

1月11日に鳩山さんは経済書や教養書をいっぺんに28冊も買って、「勉強します」と言っていましたが、総理大臣がいまさら本を買い込んで「お勉強」では話にならない。しかも「1冊あたり5分読んで、キーワードをつかむだけでも意味がある」などと愚にもつかないこともおっしゃっていました。これはいままで鳩山さんがいかに勉強してこなかったかを自分で証明しているようなもの。結局、国の経済を舵取りできるだけの知識がないのです。

今の民主党は、「とりあえず7月の参議院選挙に勝とう。それまでは国民に耳障りのいいことだけを言っておこう」と考えているだけなのでしょう。

しかし、それでは国民を騙しているのと同じです。ようやく、仙谷由人国家戦略・行政刷新相などから、「社会保障を維持するために、消費税増税の議論をするべきだ」という、良心的な声があがり始めました。が、鳩山さん自身はまだまだその感覚が鈍いと言わざるを得ません。


−−鳩山政権の金看板はと言えば「脱官僚依存」と「政治主導」だ。天下り役人の利権に斬り込んだ事業仕分けは国民からも高評価を得たが、与謝野氏はこの姿勢にも批判の矛先を向ける。


与謝野
民主党の人たちは、政治家と霞が関の基本的な役割を分かっていません。

官僚たちが持っている膨大な知識、ノウハウ、経験には、われわれ政治家がいくら逆立ちしても敵わないんです。役割が違うのだから、それはしょうがない。

では、政治家が勝負すべきところはどこかと言ったら、右か左かという国家の進むべき方向を決めるときに、自分の全人生を賭けた判断をする力です。

だから政治家がやたらと官僚組織の中に入っていって、彼らと能力を競いあっても意味がないんです。官僚も人間ですから、今のやり方では、彼らの人間としての存在感とか意欲、プライドを減衰させていくことにしかならないですよ。

それに、そもそも日本の政治体制というのは「脱官僚」なんです。だってそうでしょう。議院内閣制というのは、官僚ではなく国会議員が国の方針を決める制度なんですから。

日本における官僚政治の典型的な例は、軍人という官僚たちが国を戦争に向かわせた戦前の政治です。

しかし現在はいくら官僚が国を動かそうとしても国会のチェックはあるし、ジャーナリズムの監視の目もある。官僚が好き勝手なことはできない仕組みになっているんです。

民主党の執拗な「官僚批判」は、「制度が悪い、組織が悪い、仕組みが悪い、だからダメなんだ」というメンタリティからきているのでしょう。ものごとが上手くいっていないときに、「官僚が悪い」と言えばなんとなく国民が納得してくれる便利な言葉なんです。

だけどそれは真実ではない。日本の官僚組織は非常に優秀です。民主党の人たちも本当は分かっていると思いますよ。何しろ彼らが「事業仕分けをやろう」と言ったら、財務省がすべての資料を作って、段取りを全部付けてくれたわけでしょう。

それなのに、「政治家である俺たちのほうが利口だ。だから政治家主導で、政治家が判断したことを役人はやっていればいいんだ」などという態度を取るのは、いかにも滑稽です。


−−現在、民主党政権が直面している"疑惑"は、鳩山首相が受け取っていた11億円超の「子ども手当」と、小沢幹事長の不透明な土地取引。今月18日から始まる国会論戦でも、野党の格好の攻撃材料になるのは必至だ。


与謝野
小沢さんの土地取引については、すべての事実関係を承知していないのでよく分かりません。「疑惑」が連日報じられていますが、新聞を読んでも、それがどういう法律に反するのか、よく分からないんです。

問題は鳩山さんの巨額の贈与税逃れ、つまり「脱税」です。総理大臣にあれだけの不適切なカネの話があったら、普通は国会を乗り切れないでしょう。

母親から長年にわたり、われわれが想像できないくらい巨額のカネを受け取っていたのに、贈与税を払っていなかったのですから、これは明らかに「脱税」です。ことが明るみに出てから慌てて6億円近くを納税しましたが、払ったからもういいという問題ではない。「脱税」を犯していた人物が総理大臣の椅子に座っているのは、異常です。

政治団体の政治資金の問題であれば、会計責任者や事務担当者がいて、彼らに責任があるのかもしれません。道義的には問題だけれども、本人が知らなかった、ということは考えられる。

しかし、「脱税」は本人の責任です,自分の収入や資産は自分で管理して、自己申告するもの。税理士に任せたとしても、不備があれば本人の責任だし「知らなかった」では通るものではない。

しかも国民に「税を納めてください」と命じる政府のトップが鳩山さんです。国民に請求書を出す張本人が億単位で「脱税」していたのですから、話になりませんよ。自民党政権時代の首相だったら、間違いなくクビが飛んでいます。

今のところ、世論がそこまで沸騰していないのは、「どうせ鳩山家のカネだから」と思っているからでしょう。たしかに母・安子さんが持っているうちは、問題ありません。しかし息子にそのカネが非課税で渡った瞬間に、それは「脱税マネー」という汚いカネになっているのです。

鳩山さんにリーダーシップがないことも、国民にとって不幸なことです。小沢さんの独裁を批判する声もありますが、小沢さんを止められない民主党のほうが情けない。あれだけ鳩山総理が「暫定税率廃止」と繰り返していたにもかかわらず、一瞬でひっくり返ってしまった。マニフェストに書いてあることさえ忠実に守れない。そんな政権攻党を信用できますか。

有権者も同じ思いでしょう。「マニフェストっていったい何なんですか?」「総理の言葉ってそんなに軽いものなんですか?」。誰もがそう感じ始めているはずです。


−−下野した自民党では離党者が相次ぎ、舛添要一前厚労相などに新党結成を模索する動きもある。7月の参院選を睨んで政局は流動的だが、政界きっての「碁打ち」である与謝野氏は局面をどう読んでいるのか。


与謝野
新党を作れば、たしかに人気は出るでしょう。自民党が嫌になったけど、民主党もやっぱりちょっとおかしいな、という有権者の受け皿になりますからね。

ただし、これから政権担当能力のある政党を作ろうと思ったら、相当な準備をしないとできません。それにいまの政界は、不確定要素が多すぎてはっきりとした長期的な展望を持てない状況です。

そういうときにやるべきことは何かといったら、まずは与えられている状況でベストを尽くすことです。われわれにとっては、鳩山内閣を打倒することです。

国会の予算委員会が始まれば、いろいろ仕掛けていこうと思っています。そうやって新しい状況を生み出す。それが第一歩です。その上で、7月の参議院選挙の動きも絡めて政界再編がはじまるかどうかは、国民の考え方次第でしょうね。

ただ、われわれは少数野党ですから、驕ってはいけない。自民党に対する評価をもう一度高めるためにも、鳩山政権に対して間違っていることは間違っていると、責任をもって声を上げていかないといけません。

週刊現代:2010年1月30日号
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