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> ゼイ廼偉九段のネット特別指導碁

政治家には囲碁ファンが多い。誰が一番強いかは言わないことになっているらしいが、みるところ、与謝野さんが最強ではないだろうか。ネット対局でも先駆者的存在で、多忙の中、睡眠を削ってネット対局に熱中していたと聞いている。
与謝野さんの地元は東京・四谷。四谷といえば木谷道場で、与謝野さんも道場に出入り、碁界との付き合いはそこから始まっている。もう四十年も前のこと、いまのトップ棋士が低段あるいは院生で、そんな「若手」を捕まえては碁に励んでいたそうだ。政界最強なのは当然、それも筋金入りなのである。
譜をご覧いただければ一目瞭然だろう。黒32まで疑問手は一手もなく、完璧といっていい。
黒34は悩ましい。定型ということでいえば、黒Aのカケだろう。ついで白B、黒C、白D、黒37、白E、黒34……白の実利に黒は外勢を張ることになるが、その場合、右下の白が黒の厚みを消している意味もある。黒34がベストかどうかむずかしいながら、与謝野さんの目は右下白にまで及んでいるのである。この一事をとっても並みの打ち手ではないことが知れる。
パソコンの操作も慣れたものだ。しかしなれているとはいっても、なにせ相手はゼイ九段、持ち時間20分ではシタ手が不利。で、持ち時間延長を提案したのだが、「ボクは早打ちだから大丈夫」と与謝野さん。

この対局はソウルのゼイ九段宅と四谷にある碁会所のパソコンを結んで行われた。手合割はご覧のように三子、実は与謝野さんは「四子」を希望した。強い人ほど、プロの怖さを知っているから置きたがるものだが、与謝野さんの力量はゼイ九段にも届いていて、四子は許してくれなかった。
完璧なたち上がりの与謝野さん、しかしこの譜に入って、ほんの少しだけ足並みが乱れる。たとえば黒42。白43と換わったのはどうだったのだろう。場合によっては黒43と三々入りもありうるところで、黒42はそう急いで決める必要はなかっただろう。黒43も小さい。もっとも黒43は打った瞬間、与謝野さんも気が付いて、「あっいけない」と呟いたものだった。黒42でも44でも、黒50とツメているのが大きかったようだ。白49とボウシされたのもつらくはなかったか。黒48では49あるいはAと飛び越しておくべきだったろう。
白51はこの形での急所、「やってきましたよ」と与謝野さん。しかしこのあたりは十分承知、多少利かされの意味はあるけれど、黒52と味よく受ける。1図の黒1もあるが、白2、4から8の手段を見られるのが嫌みである。ただし黒56はむずかしい。黒58と押し上げ、白59に黒Bの打ち方もある。
黒62以下は左右の連絡を確かめたもの。相手は剛腕のゼイ九段、用心しておくに越したことはない。が、黒70のツギはさすがに固すぎたか。黒Cとケイマしてどういうことになったか。中盤の勝負どころである。
黒76とははげしい。一見、黒が無理そうに見えるが、黒82の切りが狙いの返し技だった。白83のカカエは仕方なく、黒84と押さえて、右辺白に襲いかかる。現地情報によれば、黒82と切られたときゼイさん、「強いね」と叫んだそうだ。実戦の進行でも黒悪くないのだが、黒82ではいったん83とノビ、白Aと換わってから黒82もあった。また黒84もBとノビるのも考えられた。しかしいずれも大した問題ではない。
封鎖されれば、白89までのコウは必然だろう。白91のコウダテにツイで解消したのが、好判断だった。左下を聞いていたらキリがないし、与謝野さんはシノギの筋を用意してあったのである。白93、95に黒96の切り、これがまた絶妙だった。 2図、黒1とツイでいると白2、左下を取られて、下辺黒も薄い。右辺を取り込んだといっても「黒よし」とはとてもいえないだろう。黒96でゼイ九段も、改めて与謝野さんの力量を再認識したはずだ。
黒98、100と頭を出し、黒108の手筋のツケで生き。さらに手順で、黒112、114のハネツギを利かしたのも抜け目がない。ただ細かいことをいえば、黒108と生きる前に116ともう一本押して、応手を聞く意味があったかもしれない。
「右辺が大きいんじゃないのかな」
与謝野さんもこのあたりで、わずかながら形勢よしと踏んでいた。で、ゼイ九段はどうか、「白残るかな」と思っていたそうである。
「白残るか」と見ていたゼイ九段、しかし黒20とサガられて「まずいね」と呟いたという。もっといえば、黒20で敗戦を覚悟したようである。前譜の白112のハネツギといい、この黒のサガリといい、与謝野さんは筋のよさ、腕力の強さばかりではなく寄せも巧みで、だからこそ「政界最強」の評価を得ているのだろう。
黒26は好点、この種の急所は絶対といっていいほど見逃さない。つづく黒28は白からの割り込みを警戒した手、勝利は近いと見て、ともかく相手にしっぽを掴ませないと心がけている。プロとの対局も多く、そこらあたりの呼吸は十分承知している。
ただ寄せということだけでいえば、黒28ではAとつけ、白55に黒Bとブツカるのが形ではあった。また疑問手というわけではもちろんないが、黒34も一路右の天元のほうが実質は大きかったか。さらに黒44もCのツギがまさる。実戦の黒44とは1〜2目の違いがある。黒60などもサガるか、ハネるかのいずれかだろう。あるいは白Dを味を嫌ったのかもしれない。少しずつ損をしているけれど、大勢には影響ない。与謝野さんもおそらく小さな損は折り込みずみで、「味よく」を第一義に考えている。黒優勢。
譜は172で終了しているが、実戦は三百手を超える長手数で、三百六手で終局、与謝野さんの2目勝ちだった。
終局後、ゼイ九段から電話が入り、「お強いですね」と与謝野さんの打ち回しに称賛の言葉を贈った。一方の与謝野さん、「勝たせてもらっただけ」と謙遜するが、黒の名局、自慢していい一局である。で、「朝日囲碁21」の与謝野さんの印象は、「基盤がきれいで、打ちやすい」ということだった。ひょっとすると、睡眠時間を削って、当サイトで対局しているかもしれませんね。
172手、以下略、黒2目勝ち
| 朝日囲碁21 Vol.5 2002年7月号増刊 /朝日出版社 |
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