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政策

2016年2月18日

政策雑感(15)

円は上下する、株価も予想がつかない。日銀はマイナスなどという無理な金融政策をやる。
いったい経済はどうなっているのか長い間の友人で今は野にあって日本の経済を心配している友人に色々教えてもらった。以下はその話の要旨である。

【Ⅰ】世界の金融や経済の当面の流れ

  1. 中国が主役である
    1. 中国は沈没はしないけれども苦しい調整局面に入る
    2. その影響は他の新興国にも及ぶ。
    3. 日本も欧州も例外ではない。
  2. 米国は日本、欧州よりは良い。
  3. お金がジャブジャブの時代、すなわち流動性相場は終わり始めている。
  4. 中国は鉄の作り過ぎ、原油は生産国がどんどん増産している。米国も原油の輸出を解禁した。マネーがジャブジャブの時の資源に対する投機も終わりを告げている。
  5. テロや地域紛争は世界中で起きており、経済にはマイナスの要因である。

それではいくつかの観点を見てみよう。


  1. ニューヨークダウ、日経平均、上海、英、独、仏いずれも下がっている。特に中国の下げはきつい。
  2. 円はどうか
    日本の円は毎日動くので予想しにくいが、円は比較的に安全だと思われている。円を買うという理由は存在する。中国の元はIMFの準備通貨に出世したが、安くなる方向でマーケットは動いている。
  3. 中国の外貨準備
    中国は日本、米国を抜きにしてAIIBを立ち上げたが、中国の持っている外貨準備は一昨年から減少し始めている。
    それでも2015年12月現在で、3兆3,000億ドルも持っている。しかし減少のスピードは早い、2015年12月だけでも1,100億ドルも減少した。外貨は逃げ始めているのかもしれない。
  4. 中国と世界経済
    ヨーロッパ、韓国などは輸出比率の中で中国は大きい。日本は中程度であるが対中輸出のインパクトは無視できない。
  5. 株の背景
    ここ数年株が世界中で上昇したのは、各国の中央銀行が量的緩和をした、すなわち流動性をどんどん増やしたからであるという理屈は十分成り立つ。
    今は米の利上げ、将来不安によってお金が逆流し始めている。従って「株の投機」「原油の投機」「他の資源の投機」は当然のこととして下向きの圧力を受ける。

【Ⅱ】日本の経済

  1. 停滞している。引っぱる分野がない。
  2. 個人消費はもたついている。
  3. 設備投資は弱々しく回復している。力強さは全くない。
  4. 残念なことに輸出は低迷している。

以上が現状認識。それではどんなことが将来考えられるのか
経済には構造面とサイクル面と2つの側面がある。日本は労働人口、生産性ともに下押し圧力になる。サイクル面でも在庫調整が終わっていないなど厳しい状況である。楽観的なことを言えばいずれ上向きになる。しかし時間がかかる。
一番心配なのは輸出の伸び悩みである。個人消費、設備投資もそう急速には回復しない。細かく見てみよう。

  1. 実質GDPは15年の水準は13年7月の水準で少しも伸びていない。(実力の上昇はなし)
  2. 個人消費はレベルダウンしている。
  3. 良いのはコンビニだけで、スーパー、百貨店は大変。耐久消費財も少しも伸びているとは考えられない。お金持ちの買う宝石なんかも昨年の半ばから売り上げが落ちている。
  4. 消費者のマインドは用心深くなっている。これは色々な統計に表れている。
  5. 家計所得
    ほどんと上がっていない。本当に、そして本当に緩やかな回復。
  6. 住宅投資
    日本は空家が300〜400万戸あるといわれている。一時期よく売れたマンション、今は伸び悩み。
  7. 設備投資
    掛け声をかけても統計上はゼロ近くをウロウロしている。
  8. 輸出
    心配である。金額でみても、数量でみてもマイナスになっている。(足元、特に中国、アジア向けが目立つ)
  9. 輸出価格
    円安の効果がドラマティックに出ているわけではない。
  10. 物価
    日銀が物価2%目標などというのはまったくおかしい。本当の数字は政府の資料で判る。総合で0.2%。生鮮食品を除くと0.1%食料エネルギーを除くと0.8%。

【Ⅲ】日本経済の将来

  1. 成長率の見通し
    ほとんど成長していないと言っても良い程である。大きい体の日本が更に大きくなることは大変なのである。
  2. 大事なのは日本がどれほど隠れた力(潜在成長率)を持っているかであるが、内閣府(0.6%)日銀(0.3%)といずれも低くなっている。
  3. 景気はグルグル回るが、それでも回復ペースはのろい。
  4. 働く人の数(生産年令人口)も96年頃からどんどん減少しており、この傾向は続いていく。
  5. 労働生産性も期待できる状況ではない。
  6. 経済のグルグル回る中で生産はしたけれど倉庫に眠っているもの、いわゆる在庫。これはどんどん調整を進めなければならない。
  7. 失業率・求人
    失業率は3.5%前後でほとんど完全と言われる水準。求人も求職者数を上回っている。この2つの数字は明るい。
  8. 賃金
    これだけの状況だと賃金はほどんと上がっていないはずだが、そうはなっていない。むしろ下がっているという統計もある。やはり企業は賃金を抑える政策を執っている。輸出産業以外、特に中小企業は賃金上昇率を抑えている。
  9. 消費者はどのような傾向を持っているのか。働いている世帯を見ると今下向いている。先行きの不安(例えば年金)があるためだと考えられる。
  10. 住宅設備
    一言でいえば低調な地合いである。理由を考えると世帯数の減少、300万戸以上の空屋率、マンション設計のウソ、などが響いている。
  11. 設備投資
    政府の出している色々な統計をみてもはっきり上向きとはいえない。
  12. 輸出入
    貿易統計はこのところ数年間赤字が続いてきた。貿易立国日本はどこに行ってしまったのかという心配の声がある。やっと原油が下がって貿易赤字は随分減少したが、それでも赤字である。貿易以外の稼ぎで黒字になっている。世界の中で日本の占めている輸出の比率が下がってきているのは心配、そして外国の工場(海外現地生産)の割合は上がってきている。
  13. 物価の見通し
    日銀は17年前半に2%達成と今でも言っているが、実は誰もそう思っていない。エコノミストや市場参加者もそんな高いインフレ率を予想・期待している人は少ない。企業の物価見通しも下がりはじめている。
    一つ研究しなければならないのは
    1. 金融政策で物価をコントロールできるのか。
    2. 円安の効果とはいったい何か。
    3. 消費者にとって、物価上昇とは何か。(特に賃金がそんなに上昇しない時代に)

【Ⅳ】海外の経済

    1. 米国はゆるやかな回復(しかし最近は先行きを心配する声もでて来た)
    2. ユーロ圏は徐々に持ち直し(しかし南欧は悪い)
    3. 中国は減速につぐ減速
    4. 新興国、特に資源に頼っているブラジル。ロシアは大変。
      (ブラジルは特にひどいという報道が多い)
  1. 将来はどうか
    そんなに大きな期待はもてない。回復はゆったりしたものになる。しかし様々なリスクがあることには要注意。
  2. それでは一例として中国を見てみよう。
    1. 成長率7%を下回った。(政府の数字は信用できないという人もいる)
    2. 企業の人達のマインドは製造業を中心に低迷。非製造業でも徐々に低下。
    3. 消費は比較的底固い。
    4. 住宅投資は例えば上海では、明りのつかないマンションが多数といわれ、在庫はどんどん増えているといわれている。
      (バブルだったのではないかというエコノミストもいる)
    5. 固定資産投資は政府の財政出動頼みで、インフラ投資を中心に持ち直し。
    6. 物価
      ものすごいデフレである。消費者物価、卸売物価ともにここ3年ほどですごく下がっている。
    7. 中国の成長率
      IMFは6%といっている。実際は5%ではないかといわれている。

【Ⅴ】IMFの見方(実質ベース)

  1. 世界全体の成長率  2016年3.4% 2017年3.6%
  2. 先進国だけとると  2016年2.1% 2017年2.1%
  3. 新興国       2016年4.3% 2017年4.7%

上の表から読めるのは先進国は16・17年ともに2.1%であって、社会経済共に成熟しているということである。

【Ⅵ】リスクを列挙

  1. 中国を中心に下ぶれリスク
  2. 中国発のデフレ、物価下落リスク
  3. 資金が引き上げられるリスク(例えば中国から資本逃避)
  4. 原油価格の下落リスク(他の資源も)
  5. ユーロの混乱
    難民の受け入れ。英の離脱。南欧の不調。
  6. テロ、地域紛争のリスク
    テロ、地域紛争のリスクは
    1. 輸出、設備投資の下ぶれリスク
    2. 円安・円高の急速な変動によるリスク

(注意)
上記の内、海外例えば米国では金融機関に対する規制(ボルカールール)が強化されることは金融引き締めと同じ効果をもつことである。円はどう動くかは予想できない。急速な円安・円高に対応することは難しい。

【Ⅶ】日本銀行の金融政策

  1. マイナス金利。その効果、善悪はこれから判る。しかし特効薬でないことだけは当然のである。
  2. 金融政策で経済を動かす事は出来るが、それは一定の限度がある。日銀は万能選手ではない。
  3. 日銀はもう打つ手がない。
  4. 財政を日銀のペーパーマネーで支えることを続けることは政治の金融政策依存症を深めるだけである。
  5. 金利が資源配分機能を失った経済は不健全である。
  6. 過去のリーマン危機も、ギリシャユーロ危機よりも、今世界が直面しているリスクは大きい。マイナス金利では助からない。
  7. 健全な中央銀行、独立性を持った中央銀行等伝統的な中央銀行を目指すべきである。出口のない方向にどんどん進むのは好ましくないばかりでなく、将来世代が困る。

◎ 追記

【Ⅰ】日本にとって心配な事はもう1つあります。それは次の通りです。

日本の大銀行はドルが必要になります。しかし自分ではドル預金を集める能力はありませんので欧米の銀行からドルは借りなければなりません。
借りれば当然利息を払わなければなりません。ところが日本の大銀行に対しては、特別な金利が付けられます。普通の金利より安くなるのではなく、金利は「日本向け」ということで高くなるのです。(ジャパンプレミアム)何故でしょう。  

  1. 日本のアジアに対する貸し出しは少し危ない。新興国に対する貸し出しは危ないと見られていること。不良債権になる可能性が出て来たと見られている。
  2. 米国ではFRBが金利を上げた。ドル資金は米国へという流れがある。加えて米国の銀行に対する監督規制が強くなって来た。
  3. 日銀のマイナス金利の結果、国内から国外の貸し出しを増やさざるを得ない。海外に行くためにはドルが必要。

【Ⅱ】アベノミックス

  1. 評価は分かれる。
  2. しかし金融政策頼みでは駄目だということは段々と判ってきている。
  3. この政策(三本の矢、新三本の矢)は、その成果を評価される次期が到来しつつある。

【Ⅲ】与謝野の考え

本当に実力のある経済を作り上げる必要があります。Made in Japan が誰にも負けないサービスや製品として評価される、その為には目先の景気だけではなく、長期的に国民の生活を支える経済の強い体質を作ること、これが政治の責任です。

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